PSPにおける嚥下の問題

翻訳:金子久子,医師校閲:市原典子
2004年1月1日 校閲後のものをアップ
2016年9月18日 本サイトにアップ

オリジナルの頒布:米国PSP協会

PSPにおける嚥下の問題

By Laura Purcell Verdun, M.A., CCC
Research Speech Pathologist – Voice & Speech Section,
National Institute on Deafness and other Communication Disorders
National Institutes of Health
Part-time Assistant Professor,
Johns Hopkins University Department of Otolaryngology-Head & Neck Injury


進行性核上性麻痺(PSP)では,食事や嚥下の問題はつきものです。Dysphagia は医学用語で嚥下困難のことです。


PSPで嚥下困難が起こる理由には,いろいろあります。

  1. うつむきにくくなり,食事中に皿を見るのが難しくなる
  2. 脳細胞が失われたり機能しなくなり,嚥下機能の調節に影響する
  3. 行動に変化が生じ,一気に飲んだり,食べ物を口いっぱいに入れるようになる
  4. 振戦や硬直のため,自分でうまく食べることができない
  5. 頭と首が反り返った姿勢
  6. 認知症

嚥下に関する2つの主要な問題は,

  1. 安全かつ容易に飲み込める能力。飲食物が気管や「のど笛」に誤って入る誤嚥は肺炎のリスクを高めるので,防がなければなりません。
  2. 適量の水分とカロリーを摂取し続ける能力。

嚥下に問題があるといくつかの兆候が現れます。

  • よだれ
  • 口の中に食べ物をためる
  • 飲み込むのにかなりの努力を要するようになる
  • 湿声(訳注:声帯の上に溜まった水分を通した声)
  • 薬を飲み込めない
  • 食事に時間がかかる
  • 微熱
  • 胸のつかえ
  • 会話しにくい
  • 咳が出て息が詰まり顔が赤くなる
  • 体重減少
  • ハイムリッヒ操作が必要になる
  • 肺炎

などです。PSPの患者の中には,食事や嚥下に問題があることを自覚していない人もいます。これは「無症状のもしくは潜在性の誤嚥」と呼ばれており,食べ物,水分,唾液が食道以外に入ってしまっているのに咳や窒息が起こらない状態です。

前記の兆候がひとつでもあったら担当医師に伝えてください。嚥下障害の専門家でPSPに詳しい言語病理学者に確認してもらいましょう。嚥下障害の観察日誌をつけていると役立ちます。症状が起こるときの状況,そのときの食事内容を記録したものです。これにより全面的な嚥下の評価ができ,患者のニーズに合った対処が可能になります。

状態によっては,言語病理学者の評価により,口から食べ続けるのは誤嚥のリスクがあるため安全でない,あるいは食事量が足りず体重減少が起こっているという判断が下されることもあります。この段階で胃ろう造設術を考えてもよいでしょう。その判断は個人の選択なので,家族や医師たちと十分話し合うべきです。経管栄養で適切な栄養は摂取できますが,誤嚥のリスクをゼロにすることはできません。


食事の注意点:

  1. 食事中はできれば椅子にすわり,体をまっすぐに起こしましょう。
  2. 食事中は気が散らないよう,テレビや会話は避けましょう。
  3. 食事はゆっくり一定のペースを保ってとることに集中しましょう。
  4. お盆上の皿が視野に入るように,たとえばうつむくのが困難なら電話帳にお盆を乗せましょう。
  5. 遠近両用メガネは下方を見ることができない場合は意味がないことが多いので,近眼用メガネに取り替えましょう。
  6. いろいろな食器・用具を試してみましょう。ふちのある皿は食べ物がこぼれないので便利です。フォークの代わりにスプーン,あるいは握り部分に工夫があるものを使うと食べ易くなります。
  7. いろいろなコップ・グラスを試してみましょう。1回に口に入る液体量を調節できるコップはたくさんあります。安全嚥下コップまたは嚥下障害用コップを使うと,嚥下の際,頭を安全な位置に保ちやすくなります。通常,頭はまっすぐするかあごを下げます。

嚥下の注意点:

  1. 食事前に,口や喉から余分な分泌物や唾液を取り除きましょう。
  2. 食事のとき,わずかにあごを引いた位置に頭を保ちましょう。
  3. 食事中,または薬を飲む間は,頭が後ろに反らないようにしましょう。
  4. 1口の分量は多すぎず,飲むのは速すぎず,飲み込む前に1口分以上の量の食べ物を口に詰めてはいけません。
  5. 水気の少ない,または噛み応えのある食べ物が楽に喉を通るように,食べ物と飲み物を交互にとるようにしましょう。
  6. 非常に噛み応えのある食べ物(赤身肉,生野菜など)や乾いて粒が細かい食べ物(米,プレッツェル,ポテトチップ,クラッカー,クッキーなど)は避けましょう。缶詰の果物,調理した野菜・魚・鶏肉にソースを添えたもののように軟らかくて水分の多い食べ物を取り入れます。
  7. 冷たいシリアル,チキンヌードルまたは野菜スープ,フルーツカクテルのように密度が異なる食品が混在している料理は避けましょう。このような料理は密度が一定になるよう混ぜ合わせるようにします。
  8. さらりとした液体は飲み込みにくいこともあります。口や喉を通りぬけるのが速いですし,嚥下の開始と気道の閉鎖にわずかな時差しかないからです。市販の増粘剤(Thick-It や Thicken-Up など),ジャガイモやバナナのフレーク,裏ごし果物を利用して液体にとろみをつけましょう。
  9. 薬は,液体よりもプリンやアップルソースのようなスプーン1杯のピューレ様のものと一緒に飲むほうが楽でしょう。医師の許可なく薬をつぶしてはいけません。

一般的な注意点:

  1. 口腔を清潔に保つことは大切です。
  2. 乳製品をとると分泌物が粘っこくなる傾向がありますので,乳製品は最低限にとどめてください。
  3. ポータブル吸引機は,特に食事の際に分泌物を取り除くのに役立ちます。水を多めに摂取したり,時には炭酸飲料を用いることで分泌物の量を押さえたり薄めたりできるでしょう。分泌を止めてしまう薬は,分泌物を濃くねばねばさせ対処を難しくするので避けましょう。
  4. 介護者がハイムリッヒ操作を学ぶことは大切です。担当医師,看護婦,またはセラピストに教えてもらいましょう。
  5. 体重減少に常に注意してください。
  6. 処方薬に常に注意を払ってください。嚥下障害の原因になったり嚥下をさらに難しくする薬もあるからです。
  7. 肺炎の兆候を見逃さないことが重要です。兆候には胸のつかえ,慢性的な微熱,咳の増加,痰の変化が挙げられます。
  8. Ensure,Carnation Instant Breakfast,Sustacalなどの栄養補助剤を使用することで,カロリー摂取をすばやく簡単に高めることができます。
  9. 食事中は誰かが見守ることをお勧めします。

嚥下が難しい人のための料理本が出版されています:
Non-Chew Cookbook (噛まなくてよい料理)J. Randy Wilson著
Wilson Publishing, Inc.
P.O. Box 2190
Glenwood Spring, CO 81602-2190

MeALS
The Muscular Dystrophy Association (筋ジストロフィー協会)
810 Seventh Avenue New York, NY 10019

Pureed Food with Substance and Style (栄養がありおいしそうな裏ごし食品)
Imaginart Communication Products
307 Arizona Street Bisbee, AZ 85603
800-828-1376