2.この病気でもっとも多い症状はどのようなものでしょうか。また、患者の余命はどれぐらいなのでしょうか?
PSP患者の余命はさまざまです。発病後10~15年の方もいますし、4~8年で亡くなる方もいます。死亡要因として最も多いのは肺炎で、嚥下障害が生じて食べ物や飲み物を肺に吸い込んでしまうことが原因です。1997年のPSP会合において、この病気は毎年12%ずつ進行する、という報告がありました。しかし、これは非常に幅のあるものです。
PSPの発症や進行段階がいつどのように見られるかは、患者さんごとに異なります。初期の症状として典型的なのは、理由もなく後ろや横むけに転倒することで、骨折、頭部のけが、多くのあざにつながります。これに伴って、不安定な歩行やバランス感覚の喪失があり、これらは時間とともに悪化していき、最終的には完全な麻痺状態になってしまいます。これは本当の麻痺ではなく、神経や筋肉は働いているのですが、脳に不具合が生じるために筋肉に指令を送ることができなくなってしまうのです。
PSPであることが判明するのは、目の操作ができなくなったとき、特に下方を見つめることができなくなったときです。人の助けを借りれば、目を動かすことはできるのですが、患者さん自身では不可能なのです。やがて患者さんは目を上に向けることも難しくなり、場合によっては横に向けることもできなくなります。このため、字を読むことが難しくなります。これは、目を動かせないために文章を行ごとに追うことができなくなるからで、視力が低下するためではありません。
認知機能障害は多くのPSP患者に初期に現れますが、精神的にはなんら問題ない方もいます。PSP患者は少なくとも長期記憶は失いません。ただし短期のものについては混乱するようになり、さまざまなことを一瞬で捕らえることができません。集中力が続かなくなり、判断力が失われてしまいます。PSPは、率先力やものごとを成し遂げる能力を奪ってしまいます。患者さんが長年のあいだ無意識に行っていたこまごましたことに注意が行かなくなり、忘れられてしまいます。単純な作業でも、終えるまでにとてもたくさんの時間を要するようになります。また、患者さんによっては、家族など介護をしている身近な人に対しても、あからさまな反抗を見せることがあります。ひとつ救いとなるのは、患者さんたちは自分自身の症状や将来について完全に理解することがなく、病気はすぐに治る、あるいは自分はPSPでないとさえ言い続けることです。
患者さんが車椅子に乗ったきりになる直前あたりの時期には、介護者には特別に注意が必要です。歩行器や他人の助けがあっても歩くのは難しく、それぞれの足を交互に動かすということを意識させなければなりません。これは特に危険な時期で、なぜなら患者さんたちは可能な限り歩き回ろうとし続けるからです。この場合には患者さんの足を押したり、1歩1歩足を運ぶのを手伝ったりするのが必要だ、という報告もあります。
PSPの患者さんは、衝動の抑制を司っている前頭葉が損なわれています。前頭葉のはたらきは、行動管理能力(遂行機能)と呼ばれます。この行動管理能力(例えればCEO)が損なわれることにより、患者さんの持つ知識は記憶から消えることはないものの、それが統合されたり使用されたりすることがなくなります。それにより患者さんそれぞれの年齢、経験、教育、地位などに応じた判断ができなくなります。これらは患者さんのそれまでの立場や経験に関係しています。また、前頭葉の損傷は性に関する問題にも関連があります。私たちは社会に暮らしていて、ある種の考えは胸にしまっておくこと、何でもかんでも口には出さないこと、一時的な衝動だけで行動しないこと、などを学んでいます。ところが、行動管理能力に支障のあるPSPの場合は、これらのことがある程度できなくなっています。ですから、社会的に適切な行動や発言をする能力が失われています。それと同様、たとえば椅子から立ち上がったり、ものを拾うためにかがんだりする、といった行動ができません。これらはすべて脳の同じ部分の損傷によるものであり、患者さんそれぞれのこれまでの性格や損傷の程度によって深刻な場合から軽微な場合まで程度はさまざまです。
(2002.3.3作成 2004.1.31更新)