PSPの病期(介護者の視点から)

進行性核上性麻痺介護者のための位相・病期別ガイド
編: パトリシア・レイク(テキサス州),メアリー・ホールマン(インディアナ州)
2000年8月8日

1999年,ジョン・ホプキンス病院に置かれたPSPの患者家族のためのメーリングリスト(Johns Hopkins PSP Listserv)の有志が各自の知恵を集め,進行性核上性麻痺(PSP)の標準的進行における症状を分類し,同病の位相や病期の明確化を可能にした。本書は彼等の努力の成果である。

本書におけるPSPの分類は科学的手法によるものではない。もしあなたがPSP患者の介護をしているのであれば,PSPはそれぞれ独自の「タイムテーブル」を辿ることに気づくであろう。病気の進行は各人のケースにより違ってくる。本リポートは,病状が進行するにつれ何を予期すべきかという点に関し,介護者のための概括的ガイドラインとなることを目指すものである。

また,PSPはしばしば誤診されることにも留意しなければならない。診断というものは症状に基づいてくだされるからである。多くの症状が酷似した沢山の病気や症状の複数に該当するため,真の相関を確定することは,不可能とは言わないまでも,相当な困難を伴う。そして,ほとんどの患者が投薬治療を受けており,当該薬物に起因する副作用を大変受けやすくなっているかも知れない。したがって,患者はPSPによると思われる諸症状を示すと思われがちだが,実際は違うのである。


PSPの位相/病期

位相1 - 筆跡のくずれおよび筆記困難。
発語困難,他者に理解されることが困難になる,不明瞭な発音等。
協調障害のため,突然転倒したりつまずいたりする。歩行のリズム/パターンが変わる。視覚障害。視界の「ぼやけ」を訴える患者もいる。プリズムを試みる者もいるが,眼科医が検査してもたいていは目の機能に異常はないという結論になる。
無気力,無感情,何もやる気が起きない。睡眠パターンの変化。
認知障害。健全な判断力の低下,謙虚さの減少。苛立ちと怒りっぽさの増大。


位相2 - 立ち上がったり座ったりすることが困難になる。静かに椅子に座れない。崩れ落ちるように椅子に座る。
歩行がさらに困難になる。バランスがうまく取れないので杖を使うようになる。さらに症状が進み,歩行器を使うようになる。転倒する回数が増加する。
目がよく見えないのでかがんでしまう。下方がうまく見えない。
目を開けたり閉じたりがうまくできない。目がまったく閉じないのでドライアイになる患者もいる。
服がうまく着られない。ボタンかけやファスナー閉めができない。手指が以前のように動かなくなる。
読める字を書くことがほとんどできない。
うまく食べられない。咳き込み,のど詰まりを起こす。食事の際のエチケットが守れない。食べ物を口から溢れるほど詰め込む。始終こぼす。服を汚さないよう,よだれかけを使うようになる。
排泄障害。排尿困難/トイレに着く前に漏らしてしまう。便秘または下痢。一人で尻を拭けないことがある。
入浴に介助を必要とする。手すりや入浴用イス(シャワーチェア)等が必要となる。可能なら可動シャワーヘッドが便利。
身体の片方が弱々しくなるか,ないがしろにされる。もう片方が優勢になる。例:左または右の足を引き摺って歩く等(シャイ・ドレーガー症候群)。
感染症にかかりやすい。尿路,気道(肺炎)等。
エイリアンハンド。物を掴むと離せなくなったり,離すのに長時間を要したりする。
集中困難。「心ここに有らず」の様を呈することがある。


位相3 - 強迫行動。例:指の「丸薬丸め」,想像上のテーブルクロスの皺を伸ばす等。
苛立ちと怒りっぽさがさらに増大。尿や大便の失禁。発語困難の悪化。ほぼ理解不能なことがしばしばある。適切な発音ができない。
食事困難の悪化。咳き込み/喉詰まりの増加。
認知障害の悪化。TVドラマのストーリーを追えない。視覚悪化によりあまり多く読むことができない。バラエティーや一部のニュースを見ることがある。「感覚過負荷」に陥ることがあるので,映画鑑賞は望ましくない。大音響や溢れる色彩,スクリーン上の数々の動きが患者の神経を刺激してしまうからだ。

夜間はもちろん昼間のほとんどは寝ている。「むずむず脚症候群」の症状を示す。手足や首が硬直することがある。両脚で自らを支えることが難しくなる。
転倒の増加。「発作」と表現できるような転倒を起こすこともある。手足のコントロールがまったく効かなくなり,その結果転倒を起こす。転倒後1時間ほど眠ってしまう。怪我をしたのかどうかわからない時がある。怪我を「感じる」ことができないことある。
咳き込みや喉詰まりの増加。よだれが一般的になる。口を閉じないことが多い。感染症にかかる回数がさらに増える。
日常生活において,着替えをはじめとするすべての動作にさらに介護を要する。
あまり話さない。反応はあまり示さないが,実は友だちや親戚に会うことをとても楽しんでいる。
手足に痛みを生じることがある。特に明確な理由のない,特定のできない痛み。温熱効果のあるクリームを塗ると効果を示す時がある。タイレノールも効く場合がある。
訳注:タイノレールは,アセトアミノフェンを単一成分とする解熱鎮痛剤。


位相4 - 理解不能な発語/つぶやき。単語を発することができない。何日も何も言わないことがある。
常によだれを垂らす。咳き込み,のど詰まりがさらに悪化し,経口摂取は通常不可能になる。チューブの設置に外科的措置が必要となるが,医者は経管栄養を勧めるかも知れない。口を開けるのが困難になり,薬すら飲めなくなる。
失禁/便秘の頻度が増える。
日常活動に対する興味を失う。ほぼ1日中眠っている。少しの間も落ち着いて座っていられない。ベッドに横たわりたがる。両脚で自身を支えられない。脚がもつれる。身体,特に首のあたりが硬直する。
ほとんど目を動かさない。物を「見る」ことができない。視界にある物に焦点を当てるのに時間がかかる。時に妄想や幻覚を見る。意識が混迷しているため,自分がどこにいるかわからない。
痛みを感じるが,痛みの箇所を特定できない。
引き籠っているが,依然として周りの人のことは認識している。
自分で動けない。日常生活動作(ADL)のすべてにおいて広範な介護を要する。


注:上記の位相やカテゴリーはしばしば重複し,またすべての患者に同じように当てはまるものではない。位相1の症状を2,3示し,位相3の症状を1つ示す患者もいるであろう。症状をすべて示すわけではない患者もいるかも知れない。
しかしほとんどの患者が日常生活を営むために広範な介護を必要としており,闘病中はできる限り快適に過ごさせる必要があるであろう。
病気が重度にまで進行する前に,経管栄養や延命措置等について患者から具体的な情報(患者の考え)を得ることが賢明である。
生前遺言もよい考えである。
命に関わる危急の問題が起きた際,患者がどのように扱って欲しいかを家族などが知ることができる。
おそらく長期的介護が必要となるので,患者自身が計画作成に関与することができなくなる前に,計画を作成しておくべきである。